2013年7月21日日曜日

日本マクドナルド原田氏:戦略実行には順序がある

成功を決める「順序」の経営/原田泳幸

経営難にあるマクドナルドのような企業をまかされたら、あなただったらどうやって立て直すだろうか。誰でもわかるのは、客数×単価=売上なのでこの両方を上げることができれば売上が上がるのだが、単価の上昇と客数の上昇はトレードオフの関係にある。特にマクドナルドのような業態ではこれが顕著なはずだ。(一方、高価格帯のお店では単価の購買への影響が一定の価格までは逆相関になっていたり、あまり影響がなかったりする)では、この矛盾する要求をどう達成していくのか、ということが経営者の腕の見せ所なわけだが、原田さんは各戦術の順序(シーケンス)を正しくすることでこれを解決していく。


この本において 原田さんが説いているマクドナルドの事例は、顧客体験の質が下がっているところにどんな手を売っても仕方ないので、先にESを挙げた上でCSを上げる。その上で安価な100円メニューで集客し、高いCSで来店を定着させた後に、高価格帯の商品を投入し、客単価を上げる。結果として財務体質を改善し、その上で不採算店の閉鎖に取り組みさらに筋肉質の経営に変えていく。ということなのだが、それを楠木さんは「ストーリー」と呼んでいる。

取引見取り図としてのビジネスモデルでは戦略的にはほとんど意味がない。(中略)誰が考えても大同小異の形になる。戦略とは、そもそも競合他者との違いをつくることである。取引見取り図としてのビジネスモデルでは、違いをつくるのは難しい。そこで順列としのストーリー必要になる。ポイントは順列と組み合わせの違いにある。一言でいうと、両者の違いは時間軸の有無にある。(P124)
よく、戦略と戦術の違いや、それぞれの定義を議論することがある。けれど大事なのはそんなことよりも、戦略とは戦術の組み合わせであり、個々の戦術が内容として整合性をもち、さらにそれが時間軸の上でも成り立つような順序・状態で実行されることをコントロールすることだ。

では、原田さんは具体的にどういうシーケンスをもって事にあたったのだろうか。

原田さんが取り組んだ施策のシーケンスは下記である。

<日本マクドナルド再建のプロセス>
0. 低いQSCと特徴のない安いだけの商品で顧客が離れていた 
1. QSCの向上
*これにより、2.で客数が増えた時にその人達の来店の定着率を上げる
2. 100円メニューの導入
*これにより、従来顧客でなかった人たちを顧客として取り込む
3. 新メニュー「エビフィレオ」投入
*2.で集めた顧客群に対して単価の高い商品を買ってもらう
4. 価格改訂(値上げ)
*2.で集め、1.で定着させた顧客群に対して単価を上げていくことで利益率の改善を図る
5. 新メニュー「メガマック」投入
6. 24時間営業の本格展開
7. 地域別価格制の導入
一連の活動で財務体質の改善
8. 不採算店の閉鎖

一番つらいのは、1〜3くらいの施策をうっているときだろう。QSCを上げるにはESを上げる必要があるのでその施策にはコストもかかる。その上で2.の100円メニューを投入すれば一時的には客単価が下がる。そんなことよりも不採算店の閉鎖等でコストをカットして縮小均衡にもっていきたくなる。社員も不安になる。それを原田さんは、次の施策である単価の切り上げを見越して社員に大丈夫だ、戦略は間違っていない、と説得して粛々と進めていく。こういうのを経営者の胆力とかリーダーシップとか言うのではないだろうか。

また、上記2. の機能については通常のオペレーションでも新商品の投入ごとに同様の効果が狙われている。
<通常のオペレーションに置けるカスタマーリテンション>
1. 「驚かせる」ことで新たな顧客を誘因する(マーケティングコストがかかる商品)
2.  新規顧客に高いQSCを体感してもらって来店を定着させる
3.  そのうち、その顧客がマーケティングコストが低く粗利の高い定番商品を買い始める(ここで商品のポートフォリオ全体で元がとれる)
僕はクォーターバウンダーを売り出す時に、マクドナルドという看板を掲げずに
クォーターバウンダーとだけ掲げた居舗を作りました
この商品を出した目的が、この商品自体が生み出す粗利益を得るとにあるのでなく、潜在顧客をマクドナルドに誘引することにあったからです。(P94)
これらは大手のファースドフードチェーンの施策を見ていると、すごく当たり前の事なんだろうけれど、すごいのはそれをやりきっているところにあると思う。

また、プライシングについても触れられている。
<デマンドベースプライシング>
プライシングの実験を重ねることで、客数を保ちながら最も高いプライシングができる価格帯はどこかということが把握されている。
プライシン/原価・経費などのコストや競合商品の価格と関係なく、ある商品の価値に対して、顧客がどとまで対価を払ってくれるかというプライスセンシビリテイ(価格受容性)」を測定して価格を決める値付けのメカニズム提供する商品の価値から「価格を設定し、実際にその価格で客数が落ちないかを検証して、客数を落とさないギリギリの価格である「境界点」を見極める。日本マクドナルドは新商品を出す前に-部盾舗でこの法による実験をして価格を決定している。客単価と客数を最大化するために有効な手法。(P67)
震災以降、厳しい時期が続いている日本マクドナルドだが、風景の変わった日本の消費市場の中で原田さんが次はどんな手を打ってくるのか、楽しみにみていたい。

追記1:日本マクドナルド、苦戦が続いている模様(2013/08/10)

http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20130809-00000005-biz_fsi-nb

追記2; マクドナルド、原田氏第一線退く HD社長もカサノバ氏(2014/2/19)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGF1802A_Y4A210C1MM8000/
 日本マクドナルドホールディングス(HD)は18日、社長兼最高経営責任者(CEO)に中核事業会社、日本マクドナルドのサラ・カサノバ社長兼CEO(48)が就く人事を固めた。3月下旬開催予定の株主総会を経て就任する。原田泳幸会長兼社長兼CEO(65)は会長にとどまる見通しだが、在任10年で実質的に経営の第一線から退く。
とうとうマクドナルドからは引退するみたいだけど、原田さんのような力のある経営者は経営者であることを辞めずに、次の事業での再チャレンジに期待したい。「俺のフレンチ」の坂本さんの例もある。 こうやって日本に「プロの経営者マーケット」が出来上がっていくんだと思う。

追記3; マクドナルド凋落の元凶がついにわかった(2015/7/31)
この記事おもしろい。そしてこの本の内容は、原田改革3つのステージの前期にあたるのが分かる。そして原田さんはいろんな意味でプロの経営者だなあ。

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