2013年6月5日水曜日

書評:飲食業の事業構造を理解するのに非常に優れた本。

ランチは儲からない 飲み放題は儲かる 飲食店の「不思議な算数」/江間 正和 

これは飲食業でこれから独立開業する人は必ず読んだ方がいい本。なんて親切な本なんだー。おそらく、普通のビジネスオーナーはこういうことを自分のお金でリスクをとって開業した後に、痛みと一緒に学んでいくのだろう。そして飲食店を利用する側の人も読んでおくと彼らを評価する軸ができるかも知れない。
飲食業についてビジネスモデルを理解しようとした時に、エクセルのモデリングに慣れた人なら数字を使ってその構造を解き明かすことができる。しかし、その際に困るのが未経験の場合、「何にどれくらいお金がかかるのか」ということがわからないことだ。もし仮にそれがわかったとしても、それぞれにどれくらいお金を使うのが適切なのか、業界の平均的な水準は何なのかを調べるのは、難しい。著者は住友信託で5年間働いたあと、自分のお店を新宿にもち、その経験を生かして飲食業へのコンサルティングを手がけている人だ。異業種から参入したからこその説明の仕方を、随所に見ることができる。


優れたビジネスモデルを説明する際に「業界の常識を覆す」という表現がよく使われる。セオリーとして業界で当たり前であったことと逆のことをやり、かつそれが事業の生態系として成り立つようなモデルを考えることができれば、大きな成長が期待できる場合がある。「俺のイタリアン、俺のフレンチ」はまさにそういう事業だ。しかしそれができるためには逆に「従来の業界スタンダード」を理解しておく必要がある。坂本さん自身も「俺の」のモデルの前にはMAで従来のモデルである串焼きやを買い取り、そこでかなり苦労をされたようだ。
 しかしながら、それは経営というよりも、その時代に一時的に評価されていたものが通用しなくなって撤退する、ないしは業態の変更という状況でした。私の飲食業界デビューは、言わば尻拭い的な仕事でした。正直、「ものすごく難しい業界に入ってしまった。いったいどうしよう」といった気分の日々でした。 (俺のイタリアン、俺のフレンチ/P26)
しかし、坂本さんはそれがあったからこの業態における事業運営のコツをつかめたのだと思う。
とは言え、更地から飲食店を創業するのではなく、ボロボロな状態を壊して更地にするという、2工程も3工程も多い仕事に取り組めたので、スタートとしては非常によかったと思っています。 なぜなら、これによって飲食業の裏側の、辛いこと、悲しいことを知ることができたし、 「こうすれば、こうなるはずだ」といった、ビジネスの行方が読めるようになりました。(俺のイタリアン、俺のフレンチ/P26)
では、こういう情報をできるだけ失敗する前に手に入れるにはどうしたらいいのか。そういう時にこの本は非常に優れた本だと思う。例えばこの本の中に出てくる事例を表にすると下記のようになる。青い網掛けになっている%の部分が業界の平均値(合格ライン)だとすると、「%」のこの事例は年間に100万円の利益しかでないという結構だめなケースとなる。多分、この大枠をつかんだあとで、自分のお店のコストの比率を把握し、どうやったら網掛け方向に近づけれるか考える、ということが必要なのだと思う。ちなみに「俺の」のビジネスモデルの推測値も一応いれてみた。回転率を大きく上げることで売上を3倍、4倍にし、コストの比率を相対的に下げることで異様な原価比率の高さでも利益が出るようになっている。



そして一つ面白いのが、上のモデルでも一組(二人)が毎日増えることでかなり利益率が改善されることだ。利益が99万円(3%)から210万円(7%)まで改善している。(下図)


これは大きい。いかに日々の積み重ねが大事かというビジネスであることがわかる。その他売上ののばし方等についてもいくつか基本的な考え方が提示されており、かなり参考になった。家主に家賃を上げる交渉をされたときに、妥当な額を決定するためにはどう考えたらいいか、常連の定義とは何か、何人の常連を抱えて置くべきか、など日々のオペレーションで困りそうなことが満載。そういえば、業界の人の年収平均も書いてありました。

<職位別、月収、年収>
職位    月収   年収
シェフ   35万~ 420万~
見習シェフ 30万  360万
バイト以下 ~25万 ~300万

しかし、飲食業とはなんとも給与の安い業界だなー。。。

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